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翻訳書選

 

昭和初期には多数の哲学書が翻訳されていますが、殆ど絶版になったきりで、再版あるいは再訳されたものは限られています。公開可になっているのは多くありませんが、幾つか取上げようと考えています。 

 

René Descartes

 

三宅茂訳『感情論』春秋社『世界大思想全集』第1巻より。

---フランス文学或いは哲学の研究者であったらしい三宅茂の訳で、最近では『情念論』と題されているものです。デカルトが精神と身体の接点としてpassionを、当時の生理学の知識を基に論じている。今から見れば牽強付会だが、現代でも脳科学とやらが「精神」を論ずるのと変わらないと見える。 

 

 

John Locke 

 

八太舟三訳『悟性論』春秋社『世界大思想全集』第13巻より。 

---宗教家にしてアナーキストであったらしい八太舟三による訳で、哲学の専門書としては訳語に問題がありますが、近代的哲学としては重要な書です。An Essay Concerning Human Understanding の部分訳で言語論など重要な部分が抜けていますが、参考にはなるでしょう。 

加藤卯一郎訳『人間悟性論』岩波文庫より。

大槻春彦の全訳が出るまで岩波文庫に収録されていた訳です。抄訳ですが、八太舟三訳で省かれている分を補うものとして、八太訳と重複する個所をいくつか省いてPDF化し公開します。両訳で訳出個所の対照を一覧で示します。

 

 

Karl Marx & Friedrich Engels 

 

リャザノフによって公開された当時、幾つかの訳が公刊されました。現在は、原典の状態を詳細に示した新訳が公刊されています。それらを参考に、三木訳に少し手を入れています。 

三木清訳で『ドイッチェ・イデオロギー』と表記されている。

○『ドイツ・イデオロギー』:岩波書店刊。 

 

堺利彦訳『共産党宣言』彰考書院刊より。

---戦前にも幾種類か翻訳されていますが、比較的早い時期に幸徳秋水等と訳された。戦前は発禁になっていたが、敗戦後まもなく出版された。 

堺利彦訳『社会主義の発展』改造文庫より。

---「空想から科学へ」と呼ばれエンゲルスの著としては最も読まれたものでしょう。

 

佐野文夫訳『フォイエルバッハ論』岩波文庫版より。 

---エンゲルスの小論でいくつかの訳が出版されています。上記『ドイツ・イデオロギー』を回顧しながら書かれたということです。 

 

西雅雄訳『家族・私有財産及び国家の起源』岩波文庫版より。

---エンゲルスがモルガンの研究を手がかりに標題の歴史研究に臨む。人類学の研究はその後長足の進歩を示しているので、批判される点は多いだろうが、時代における支配的なブルジョアイデオロギーを脱しようとする姿勢を学ぶべきだろう。

西雅雄訳『ゴータ綱領批判』岩波文庫版より。

---マルクスが綱領批判を通して、未来を僅かに覗いて見せた文章と、エンゲルスによるその間の事情を語る手紙よりなる。

山川均訳『フランスの内乱』新潮社マルエン選集版より

---マルクスが1871年パリでの労働者たちの死を悼み、捧げた弔辞。

Rosa Luxemburg

 

Rosa Luxemburg, 1870-1919。ポーランド生まれの女性革命家、ドイツ社会民主党左派の理論的指導者。第一次世界大戦を支持する社民党を離れ、リープクネヒト等とドイツ共産党を組織するが、直後、逮捕され虐殺された。 

佐野文夫訳『経済学入門』岩波文庫版より。 

ドイツ社民党のベルリン中央党学校で1907年から行った経済学の講義を元に執筆された。未完に終り、一部は『資本蓄積論』に転用されている。佐野訳はレヴィ編輯版である。 

 

 

 

Wilhelm Windelband

 

Wilhelm Windelband, 1848-1915。新カント学派の中心的人物。カント解釈では彼を外せないという事だが、哲学概論、西洋近世哲学史の訳もかなりの冊数が出回ったのではないか。その彼が論理学を概観した、哲学的百科事典の一項目として執筆された“Die Prinzipien der Logik”の訳がある。

竹佐哲雄訳『論理学の原理』:国会図書館でもデジタル化資料として公開されている。 

 

 

 

Wilhelm Dilthey

 

Wilhelm Dilthey, 1833-1911。ドイツの哲学者ですが、哲学的体系を残すタイプではなく、学派をもたないというべきか、どの学派に属すともあまり言われない。哲学そのものをも歴史的に相対化して捉えようとしていて、哲学の専門家にあっては必読の学者であるようです。彼に言及している論文は多数に上ります。しかし、全集の訳出はつい最近です。解釈学は一般受けしないということでしょうか。

“Systematische Philosophie”に A. Rieh, W. Wundt等の論文と載せられた“Das Wesen der Philosophie”は戦前には二通りの訳が出版されています。そのうち戸田三郎氏が岩波文庫から出版したものを公開します。

戸田三郎訳『哲学の本質』岩波文庫。 

 

 

 

Edmund Husserl

 

Edmund Husserl, 1859-1938。ドイツの哲学者、数学の研究者であったが、Franz Brentanoに師事し哲学の研究の道に入る。現象学Phänomenologieの創唱者である。

現象学的還元とかエポケー、あるいはノエシス・ノエマといった言葉は、20世紀前半の哲学では知っておくべき言葉になりました。それらを打ち出したのが、1913年に出版された”Ideen”第1巻です。最初の翻訳は鬼頭英一氏のものですが、続いて池上鎌三訳が岩波文庫で出されました。渡辺二郎氏の訳が出るまでは定番だったでしょう。渡辺氏の訳の方がはるかに理解しやすいので勉強するならそちらを勧めますが、とりあえずどう言っているかを知るのに手頃なようにPDFを作成しました。 

池上鎌三訳『純粋現象学及現象学的哲学考案』

高橋里美全集第四巻からフッサールの解説をPDF化して見ました。教授時代の終わり近く、フッサールの講義を受講した者の解説です。

高橋里美『高橋里美論文集--フッサール関連』。

 

 

 

 

Max Scheler

 

Max Scheler, 1874-1928。ドイツの哲学者で、フッサールの最初期の主要な弟子に属する。「哲学的人間学」の提唱者ということになるが、体系的には未完に終る。『シェーラー著作集』全十五巻白水社刊がある。

“Vom Ewigen im Menschen” Bd. I, S. 59-123.に載せられた“Vom Wessen der Philosophie und der moralischen Bedingung des philosophischen Erkennens”「哲学の本質並びに哲学的認識の道徳的制約について」の訳で、『哲学とは何か』に上記Diltheyの論文と共に出版された。なお他にフッサールの「厳密な学としての哲学」が収められていた。

三木清訳「哲学の本質」。 

 

 

 

Ernst Cassirer

 

Ernst Cassirer, 1874-1945。ドイツの哲学者で、新カント派のマールブルク学派に属する。新カント派は現象学・実存主義の擡頭の前に跡形も無く消えたと見られがちですが、カッシーラーの残した仕事は消えるものではないでしょう。『実体概念と関数概念』で自然科学的概念の特質を鮮やかに描いた後、『シンボル形式の哲学』では学問的概念=認識の特質を「シンボル形式」として描いています。

矢田部達郎要訳「象徴形式の哲学」これは、翻訳ではなく、矢田部が理解したものを自分の言葉で表現する、と言う異色のものです。岩波文庫の全訳と比べたところ、哲学史的な論点が触れてはいますが大幅にカットされています。専門的な哲学の勉強としては不満があるかもしれませんが、読みやすく、基礎知識の習得にはもってこいの書になっているのではないか。 

 

 

 

Henry L. Stimson(ヘンリー スティムソン)

1867-1950、アメリカ合衆国の共和党の政治家。第二次世界大戦では、高齢ではあったが民主党のルーズヴェルト大統領に請われ陸軍長官に就任、原爆投下の責任者の一人である。取り上げた『極東の危機』は、そのず~と以前の、日本の満州侵略当時のアメリカ合衆国国務長官として、自国極東政策を擁護するために書かれた。日本政府・軍隊の行動が、アメリカ人によってどう観られていたかを示す貴重な史料と考えます。 

 

『極東の危機』:清沢洌訳(中央公論社刊) 

『Far Eastern Crisis』:『極東の危機』の翻訳PDFと、docx形式の原著。 

 

 

2nd Earl of Lytton(リットン卿)

1876-1947、イギリス貴族で政治家。彼個人の執筆ではありませんが彼が代表ということで、挙げておきます。 

聯盟事務局訳『国際聯盟日支紛争調査委員会報告書』:(日本評論社刊) 

『lytton-report』:『リットン報告書』の原著、国際聯盟協会発行(角川書店復刻版)を底本とした。 

 

<リットン比較>として、既存の他の報告書訳との比較検討文を公開した。それぞれに問題点がありますが、ひどい訳、為にするとも見えるものも出回っているという指摘をしてみました。 

 

 

プラトン

A.D. 428/7 ~ A. D. 348/7、古代ギリシャの哲学者。公開可能な翻訳は意外に少なく、二点で、共に国会図書館デジタル資料として公開されています。そのうちの一つ、 

菊池慧一郎訳『プロタゴラス』:(岩波書店刊)ごく初期の対話篇です。プロタゴラスは、ソフィストの中でも特に高名で、ほとんど親分クラスであったらしい。ひよっこのプラトンがおそるおそる批判してみたという感じです。 

Émile Durkheim, (エミール デュルケーム)1858-1917

社会学を実証科学にしたと自称する御大、残した著作は僅かですが、足跡は大きい。

田辺寿利訳『社会学的方法の規準』(Les règles de la méthode sociologique, 1895):日本語訳は多数出ていて、学生の必読書でしょう。少し古く表現が分かりにくいところがありますが、フランス社会学の紹介者として名を残した田辺寿利の訳です。 訳者による最終校正が為されていないものですが、専門外だが読んでおくという方のために公開します。

田辺寿利訳『教育学と社会学』(Éducation et sociologie, 1922):デュルケームの著書と言うよりも、彼が講じた教育学講座の要旨みたいなもの、それを四篇集め、フォコンネ氏が自身の序論を附して出版したものである。この訳書は、更に田辺氏が選んだ「パリ大学の歴史」を加えて五篇からなる。社会と国家との区別がつかないなどデュルケームの論文としては不満が残るが、彼の特質はよく出ているのではないか。

Ludwig Feuerbach フォイエルバッハ1804-1872

植村晋六訳『哲学改革への提言』Vorläufige Thesen zur Reform der Philosophie, 1842.岩波文庫『将来の哲学の根本問題』(1930)から

佐野文夫訳「ヘーゲル哲学の批判」Zur Kritik der Hegelschen Philosophie, 1839, 岩波文庫『ヘーゲル哲学の批判』1933年刊から。

Auguste Comte オーギュスト・コント 1798-1857

田辺寿利訳『実証的精神論』(Discours sur l'esprit positif, 1844)信濃書房1948古典叢書から。コントが天文学にかこつけて哲学を論じた書の序文を独立させたもの。原文は長ったらしい文であるが、田辺氏が苦労して訳している。

Ле́нин ウラジーミル・イリイチ・レーニン 1870-1924

青野季吉訳『改訳帝国主義論』(希望閣刊1925)、ドイツ語版を訳したもの。今ではロシア語版から訳したものも出ていますが、国会図書館で公開されているものをPDF化しました。英訳版などと比べて少しチェックした所いくつかミスと思われる所を見つけたので、コメントを挿んでいます。

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